INASOFT 管理人のひとこと


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■知り合いが小説家デビューしたので読んでみた話。同人とかじゃなくて。

2016年 9月 3日(土) 0:00:00 [さくらのブログから転記]



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フリーソフト仲間の柳井さんが小説家デビューされました。普通に(同人ではなく)、文藝春秋から出版です。これはすごい。

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裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』です。

窓の杜に中村氏による熱いレビュー記事が載っているので、濃厚な感想はそちらにお任せするとして、僕は僕でライトに感想を書こうかと思います。

僕も一応、(同人ではありますが)小説を書いてみたこともありまして、文章を紡ぎ出していくときの苦しみは、なんとなく理解しています。

なので、この厚さの小説を書けること。また、最後まで書き終えることができるというのが、非常に大変だということは、よくわかります。

そこに、「プログラマーあるある」的な要素を各所にちりばめて、作者らしさをだしてきたなぁと、すごいことです。

キャラクターを描くときの細かな描写、しつこすぎない程度の解説、時には読者のニーズに合わせたしつこい解説。

おそらく、作者自身が体験してきたことも、色々書いてあるのでしょう。

明らかに作者自身の体験だと思うのが、マルチモニタに関する描写ですね。モニタの枚数がそのまま、効率に繋がるという。僕も自宅と会社で、デュアルモニタ環境で作業をしていますが、以前に作者の自宅を訪問させてもらったときには、なんとトリプルモニタ環境で作業していましたから。作者の実体験が大きく登場しているところでしょう。

それから、主人公の安藤裕美が冒頭で直面する事件。いわゆる反社会的勢力絡み。もしかしたら、作者自身もこれと近いような体験があったのかも知れません。

そういえば僕も会社で、こういった勢力に巻き込まれないように、あるいは、巻き込まれた先輩方が過去にどう対処したかについて、社内教育を受けたことがありました。プログラマとかエンジニアとか、そういった職種も、そういった事件の存在とは紙一重の位置にいるのは間違いありません。

社会の為を思って立ち上げた会社が、事業が、反社会的勢力であるとか、悪意を持った人間の踏み台にされてしまう、それもまた現実でしょうし、作者に似たような経験があるのかも知れません。

たしか2011年頃、無償で配布しているフリーソフトやオンラインソフトに、第三者がツールバーとかダウンローダーとかを添付した状態で配布する事件があったことを思い出します。

また、少し前も、フリーソフトやオンラインソフトの紹介サイトやダウンロードサイトに表示される広告に、あたかもメインのダウンロードボタンであるかの如く、偽のボタン(ダウンロードボタン型詐欺広告)を表示し、マルウェアを忍ばせる手口の詐欺も見受けられました。

最近では、「他ソフト同梱型ソフトウェア」の「同梱部分」が、他所からダウンロードされる仕組みに変わり、それがマルウェアの配布に一役買っているという、新たな形での詐欺行為も生まれてきていると聞きます。

善意で、あるいは、楽しみで公開しているフリーソフトとか、オンラインソフトとかが、そうした、悪意のある人間の、あるいは反社会的勢力の肥やしにされているという体験は、僕の身にも覚えがありますし、この作者も体験してきていることでしょう。

フリーソフトやオンラインソフトの作者と言えど、そういった悪意と無縁でいることはできません。通常想定されるような、作者と利用者の関係、あるいは雑誌掲載などの仲介業者との関係とかではなく、もっと別次元の、悪意を持った、組織的な存在とは無縁ではいられないのです。

フリーソフトやオンラインソフトの場合、作者は個人であることも多いことでしょう。当然法務部門なんかありません。

守りの薄い存在です。そういったところにも、悪意を持った組織はやってきて、付け込んでくるのです。

そういった苦い経験や、そこから立ち直ってきた気概が、本書には詰め込まれているんじゃないかなと思います。

ちなみに、ダウンロードボタン型詐欺広告は、反社会的勢力の資金源になるとか、国際テロ組織の資金源になるとか言われています。GoogleのAdsenseという、Google社員当事者達は善意で、あるいは豊かな社会的作用のある事業として立ち上げたはずのシステムが、悪意を持つ組織に利用された一例になってしまっています。反社会的勢力や国際テロ組織の資金源に利用されてしまうかもしれないというのは、非常に残念なことです。また、フリーソフトやオンラインソフト、あるいは公開サイトが、そうした資金ルートの流れの一端としての役割を担わされているかもしれないというのも、非常に残念です。

小説が中程に差し掛かると、いよいよ事件の真相が見えてきて、ページをめくる手が止まらなくなります。

色々小説を読んできましたが、面白い小説はだいたいこういった現象を起こすものです。たまに、電車から降りるのを忘れることがあります。この小説を読んでいるときも、電車から降りるのを忘れそうになりました。いや、1駅か2駅くらいだったら、故意におり忘れても良いんじゃないか(笑)。

この作者は、普段はJavaScriptの参考書籍など、プログラミング系の書籍を手がけているわけですが、こうした、時間を忘れさせてくれるような本も書けることにビックリしました。想像以上に面白かったです。

まぁ、細かいところを書けば、従業員が「辞表を書いて出して」くると言ってみたり(たぶん、その登場人物は、そういう言い間違いは絶対しないタイプ)、具体的な金額が登場するシーンがあるが、円の価値が将来変わることもあるんじゃないかなとか、あるわけですけど、そういうのは横に置いておけるくらいに面白かったと思います。




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